最高裁平成15年11月11日判決―開業医の転送義務と相当程度の可能性
病名を確定できなくても転送義務は成立し得る。重大な後遺症について「相当程度の可能性」も問題となる
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 判決日
- 平成15年11月11日
- 事件番号
- 平14(受)1257号
- 結論
- 破棄差戻し
開業医の転送義務と、通常の因果関係が立証できない場合の「重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性」の双方について必須の最高裁判例です。
事案の概要
小学生の患者が発熱、頭痛、嘔吐等を訴えて開業医を受診し、点滴等を受けたものの症状が改善せず、その後、急性脳症による重大な後遺障害を残した事案です。点滴中にも嘔吐が続き、軽度の意識障害を疑わせる言動があり、母親が不安を感じて診察を求めていたことなどから、いつ高度医療機関へ転送すべきだったかが問題となりました。
判決主文
原判決中上告人に関する部分を破棄する。
前項の部分につき、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
判旨の重要部分 原文
判決書から重要部分を要約せず原文のまま掲載しています。改行はWeb表示に合わせています。
被上告人は、上記の事実関係の下においては、本件診療中、点滴を開始したものの、上告人のおう吐の症状が治まらず、上告人に軽度の意識障害等を疑わせる言動があり、これに不安を覚えた母親から診察を求められた時点で、直ちに上告人を診断した上で、上告人の上記一連の症状からうかがわれる急性脳症等を含む重大で緊急性のある病気に対しても適切に対処し得る、高度な医療機器による精密検査及び入院加療等が可能な医療機関へ上告人を転送し、適切な治療を受けさせるべき義務があったものというべきであり、被上告人には、これを怠った過失があるといわざるを得ない。
患者の診療に当たった医師が、過失により患者を適時に適切な医療機関へ転送すべき義務を怠った場合において、その転送義務に違反した行為と患者の上記重大な後遺症の残存との間の因果関係の存在は証明されなくとも、適時に適切な医療機関への転送が行われ、同医療機関において適切な検査、治療等の医療行為を受けていたならば、患者に上記重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者が上記可能性を侵害されたことによって被った損害を賠償すべき不法行為責任を負うものと解するのが相当である。
実務上のポイント
- 病名を確定できなくても、重大で緊急性のある病気の可能性を認識でき、自院では適切に対処できない状況なら転送義務が成立し得ます。
- 転送義務違反と重大な後遺症との通常の因果関係が立証できない場合でも、「重大な後遺症が残らなかった相当程度の可能性」が別途問題となります。
- 過失論と因果関係論の双方から参照すべき判例です。