最高裁平成12年9月22日判決―相当程度の可能性
通常の因果関係に届かなくても、死亡時点で生存していた「相当程度の可能性」を法的保護利益とした判例
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 判決日
- 平成12年9月22日
- 事件番号
- 平9(オ)42号・民集54巻7号2574頁
- 結論
- 上告棄却
医師の過失と死亡との間の因果関係を認める「高度の蓋然性」までは証明できない場合でも、適切な医療を受けていれば患者が死亡時点でなお生存していた相当程度の可能性が証明されるときは、その可能性自体が法的に保護されるとした基本判例です。
事案の概要
患者は突然の背部痛等のため夜間救急外来を受診しました。医師は急性膵炎や狭心症を疑いましたが、血圧・脈拍等の測定、心電図、ニトログリセリン投与等を行わず、点滴中に患者が急変して死亡しました。原審は、医療水準にかなった医療が行われていれば救命できた「高度の蓋然性」までは認められないものの、救命できた可能性はあったとして慰謝料200万円を認めました。最高裁は、適切な医療が行われていれば患者が死亡時点でなお生存していた「相当程度の可能性」は法によって保護される利益であるとして、この判断を是認しました。
判決主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
判旨の重要部分 原文
判決書から重要部分を要約せず原文のまま掲載しています。改行はWeb表示に合わせています。
三 本件のように、疾病のため死亡した患者の診療に当たった医師の医療行為が、その過失により、当時の医療水準にかなったものでなかった場合において、右医療行為と患者の死亡との間の因果関係の存在は証明されないけれども、医療水準にかなった医療が行われていたならば患者がその死亡の時点においてなお生存していた相当程度の可能性の存在が証明されるときは、医師は、患者に対し、不法行為による損害を賠償する責任を負うものと解するのが相当である。けだし、生命を維持することは人にとって最も基本的な利益であって、右の可能性は法によって保護されるべき利益であり、医師が過失により医療水準にかなった医療を行わないことによって患者の法益が侵害されたものということができるからである。
原審は、以上と同旨の法解釈に基づいて、甲野医師の不法行為の成立を認めた上、その不法行為によって守が受けた精神的苦痛に対し同医師の使用者たる上告人に慰謝料支払の義務があるとしたものであって、この原審の判断は正当として是認することができる。
実務上のポイント
- 「高度の蓋然性」による死亡との因果関係が証明できない場合でも、それで直ちに請求がすべて否定されるわけではありません。
- 適切な医療が行われていれば死亡時点で生存していた「相当程度の可能性」が証明されれば、その可能性の侵害について損害賠償責任が成立し得ます。
- 平成11年2月25日判決の通常の因果関係と、本判決の「相当程度の可能性」を段階的に区別して検討することが重要です。
- 単なる抽象的な「助かったかもしれない」ではなく、具体的な医療行為と結果回避可能性を医学的資料で裏付ける必要があります。