最高裁平成9年2月25日判決―開業医の転送・検査義務
病名を確定できるかだけでなく、自院で対応できない重大疾患を疑って次の医療機関につなぐことが開業医の役割となる
- 裁判所
- 最高裁判所第三小法廷
- 判決日
- 平成9年2月25日
- 事件番号
- 平7(オ)1205号
- 結論
- 破棄差戻し
開業医の役割を、比較的軽度の病気を治療することに加え、重大な病気の可能性がある患者を高度医療機関へ転医させることにもあると明示しました。
事案の概要
長期間にわたり開業医から複数の薬剤を投与されていた患者が顆粒球減少症を発症し、敗血症による内毒素性ショックで死亡した事案です。薬疹の可能性のある発疹や長期の薬剤投与歴を踏まえて、投薬中止、血液検査、高度医療機関への転医等の注意義務が問題となりました。
判決主文
原判決を破棄する。
本件を広島高等裁判所に差し戻す。
判旨の重要部分 原文
判決書から重要部分を要約せず原文のまま掲載しています。改行はWeb表示に合わせています。
被上告人西川のような開業医の役割は、風邪などの比較的軽度の病気の治療に当たるとともに、患者に重大な病気の可能性がある場合には高度な医療を施すことのできる診療機関に転医させることにあるのであって、開業医が、長期間にわたり毎日のように通院してきているのに病状が回復せずかえって悪化さえみられるような患者について右診療機関に転医させるべき疑いのある症候を見落とすということは、その職務上の使命の遂行に著しく欠けるところがあるものというべきである。
しかしながら、右(一)の見地に立って本件を見るのに、開業医が本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与された患者について薬疹の可能性のある発疹を認めた場合においては、自院又は他の診療機関において患者が必要な検査、治療を速やかに受けることができるように相応の配慮をすべき義務があるというべきであり、スエ子の発疹が薬疹によるものである可能性は否定できず、本症の副作用を有する多種の薬剤を長期間継続的に投与されたものである以上はネオマイゾンによる中毒性機序のみを注意義務の判断の前提とすることも適当でないから、原審の確定した事実関係によっても、同被上告人に本症発症を予見し、投薬を中止し、血液検査をすべき注意義務がないと速断した原審の右判断には、診療契約上の注意義務に関する法令の解釈適用を誤った違法があるといわざるを得ない。
実務上のポイント
- 開業医に専門病院と同じ診断能力を要求した判例ではなく、自院の役割と限界を踏まえて必要な検査・転医につなぐ義務を問題にしています。
- 診断名を確定できたかではなく、重大疾患の可能性を踏まえて次の行動を取るべきだったかという形で過失を構成できる場合があります。
- 長期投薬、症状の改善不良、新たな徴候などを時系列で評価することが重要です。