最高裁平成7年6月9日判決―医療水準の相対化
医療水準は全国一律ではなく、医療機関の性格や地域の医療環境等によって具体化される
- 裁判所
- 最高裁判所第二小法廷
- 判決日
- 平成7年6月9日
- 事件番号
- 平4(オ)200号
- 結論
- 破棄差戻し
昭和57年判決の「医療水準」を具体化し、新しい治療法・知見がどこまで普及していたかを、当該医療機関の性格や地域性を踏まえて評価する枠組みを示しました。
事案の概要
未熟児として出生し、姫路赤十字病院の新生児センターで診療を受けた患者が未熟児網膜症となり、高度の視力障害を残した事案です。生後16日に眼底検査を受けた後、退院まで眼底検査が行われませんでした。原審は、光凝固法について統一的な治療指針が公表される前であったことなどから過失を否定しましたが、最高裁は、医療機関の性格や地域の医療環境などを十分検討せず医療水準を判断した点に誤りがあるとして破棄差戻しとしました。
判決主文
上告人らの本訴請求中、被上告人に対し、上告人林貴幸が金二三〇〇万円及び内金二〇〇〇万円に対する昭和五一年七月二四日から、内金三〇〇万円に対する昭和六三年七月一五日から各完済まで年五分の割合による金員の支払を求める部分、上告人林暁、同林幸子が各金二三〇万円及び各内金二〇〇万円に対する昭和五一年七月二四日から、各内金三〇万円に対する昭和六三年七月一五日から各完済まで年五分の割合による金員の支払を求める部分につき原判決を破棄し、本件を大阪高等裁判所に差し戻す。
判旨の重要部分 原文
判決書から重要部分を要約せず原文のまま掲載しています。改行はWeb表示に合わせています。
したがって、ある新規の治療法の存在を前提にして検査・診断・治療等に当たることが診療契約に基づき医療機関に要求される医療水準であるかどうかを決するについては、当該医療機関の性格、所在地域の医療環境の特性等の諸般の事情を考慮すべきであり、右の事情を捨象して、すべての医療機関について診療契約に基づき要求される医療水準を一律に解するのは相当でない。そして、新規の治療法に関する知見が当該医療機関と類似の特性を備えた医療機関に相当程度普及しており、当該医療機関において右知見を有することを期待することが相当と認められる場合には、特段の事情が存しない限り、右知見は右医療機関にとっての医療水準であるというべきである。そこで、当該医療機関としてはその履行補助者である医師等に右知見を獲得させておくべきであって、仮に履行補助者である医師等が右知見を有しなかったために、右医療機関が右治療法を実施せず、または実施可能な他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採らなかったために損害を与えた場合には、当該医療機関は、診療契約に基づく債務不履行責任を負うものというべきである。また新規の治療法実施のための技術・設備等についても同様であって、当該医療機関が予算上の制約等の事情によりその実施のための技術・設備等を有しない場合には、右医療機関は、これを有する他の医療機関に転医をさせるなど適切な措置を採るべき義務がある。
実務上のポイント
- 医療水準は全国一律ではなく、大学病院・基幹病院・一般病院・診療所など医療機関の性格や地域の医療環境等を踏まえて具体化されます。
- 患者側では、事故当時、被告医療機関と類似する医療機関に当該知見・治療法がどの程度普及していたかを調査することが重要です。
- 必要な技術・設備が自院にない場合でも、それだけで免責されるのではなく、適切な医療機関への転医が問題となります。