東京地判令7.1.30
近時の裁判例 因果関係論近時の裁判例過失論

東京地判令和7年1月30日―在宅医療のショック対応と適切な医療を受ける利益

ショックへの積極的治療を行わなかった過失と、因果関係が立証できない場合の患者利益を検討した事例

在宅医療救急搬送期待権相当程度の可能性終末期医療
裁判所
東京地方裁判所民事第35部
判決日
令和7年1月30日
事件番号
令5(ワ)1524号・令6(ワ)525号・判例時報2647号
結論
一部認容・一部棄却(控訴)
この判例の位置づけ

最判平23.2.25が示した「著しく不適切な医療行為」の枠組みを踏まえ、通常の因果関係も相当程度の可能性も否定しながら、適切な医療行為を受ける利益の侵害を認めた限定的な認容例として重要です。

01

事案の概要

在宅医療・訪問看護を受けていた91歳女性が、訪問看護時に収縮期血圧50~60mmHg台、意識レベル低下などショック状態を呈しました。主治医はその報告を受けながら、生理食塩水点滴、抗菌薬処方、翌日の往診を決めるにとどまり、救急搬送を要請しませんでした。患者は約6時間後までに心肺停止となり死亡しました。ショックへの対応、終末期医療として積極的治療を行わないことの可否、死亡との因果関係等が争われました。

02

判決主文

1 被告社団は、原告に対し、200万円及びこれに対する令和5年2月9日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
2 原告の被告社団に対するその余の請求を棄却する。
3 原告の被告会社に対する請求を棄却する。
4 訴訟費用は、原告と被告社団との間においては、40分の37を原告の、40分の3を被告社団の各負担とし、原告と被告会社との間においては、原告の負担とする。
5 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。
03

判旨の重要部分 原文

判決書から重要部分を要約せず原文のまま掲載しています。改行はWeb表示に合わせています。

ショック状態の患者は、治療されなければ通常致死的であり、その治療は、評価と同時に開始し、大量の輸液(典型例では最大速度によることを必要とする。)や血管収縮薬の投与などの救急処置から開始することが認められる。

そうすると、仮に、亡Qのその時点での病状や年齢、それまでの一連の診療経過等に照らして大量の輸液等のショックに対する救急処置を行ってもなお亡Qの死亡が不可避であると予想されるものであったとしても、以上のようにP1医師が亡Qのショックに対して積極的治療を行わなかったことは、医師の注意義務に反するものであったといわざるを得ない。

以上によれば、P1医師の上記過失と亡Qの死亡との間に因果関係があるとはいえない。また、以上の経緯に照らすと、そのような相当程度の可能性があるということも困難である。

患者が適切な医療行為を受けることができなかった場合に、その行為態様や結果の重大性等に照らして当該医療行為が著しく不適切なものであるというべきときは、適切な医療行為を受けるという患者の利益を侵害する不法行為が成立すると解される。

04

実務上のポイント

  • DNARは心停止時の心肺蘇生を行わない方針であり、それだけでショック時の輸液・救急搬送等を行わない根拠にはなりません。
  • 積極的治療を差し控える終末期医療として正当化するには、患者本人・家族との意思決定過程が重要です。
  • 通常の因果関係と相当程度の可能性が否定されても、医療行為が「著しく不適切」な場合の患者利益侵害が問題となり得ることを示しています。