東京地裁平成26年3月28日判決―診療ガイドラインの扱い
ガイドラインは重要な資料だが、その記載だけで個別患者の適応・過失が自動的に決まるわけではない
- 裁判所
- 東京地方裁判所
- 判決日
- 平成26年3月28日
- 事件番号
- 平23(ワ)38669号
- 結論
- 請求棄却
脳卒中治療ガイドライン2009の推奨度を踏まえつつ、狭窄率、年齢、既往、病変部位、臨床実施状況等を総合してCASの適応を判断した裁判例です。
事案の概要
症候性内頸動脈狭窄症の患者が頸動脈ステント留置術(CAS)を受け、その後、多発性脳梗塞を発症して左上下肢麻痺の後遺障害を残した事案です。患者側は、頸動脈内膜剥離術(CEA)を選択すべきでCASには適応がなかったことなどを主張しました。裁判所はガイドラインの推奨内容に加え、狭窄率、年齢、既往、病変部位、側副血行路、易出血性などを総合してCASの適応を否定しませんでした。
判決主文
1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
判旨の重要部分 原文
判決書から重要部分を要約せず原文のまま掲載しています。改行はWeb表示に合わせています。
本件ガイドラインは,内頸動脈狭窄症につき,CEAの危険因子を有する症例については,CASの実施を推奨し(グレードB),CEAの危険因子を有しない症例についても,CASの実施を考慮しても良い(グレードC1)とすることに照らすと,上記ガイドラインが,狭窄率70%超の症候性頸動脈高度狭窄病変につき,CEAの実施を強く推奨していることなどを考慮しても,原告にCASの適応はなかったなどとはいえない。
この点,確かに,医学文献には,CASの適応はCEAのハイリスク症例に限られる旨の指摘や,CEAのハイリスク症例についてはCASを,それ以外の症例についてはCEAを選択すべきである旨の指摘があるものの,上記のとおり,本件ガイドラインは,CEAの危険因子を有しない症例についても,CASの実施を考慮しても良いとするのであり,十分な科学的根拠はない(グレードC1)とされていたにもかかわらず,当時,多くの医療機関においてCASが実施されていたことをも考慮すると,CASの適応はCEAのハイリスク症例に限られるとするのは困難であり,原告の上記主張は採用するに至らない。
実務上のポイント
- ガイドラインは医療水準を検討する重要資料ですが、「ガイドライン違反=直ちに過失」とはなりません。
- 推奨グレード、科学的根拠の強さ、患者個別の病態、他の医学文献、当時の臨床実態を併せて評価する必要があります。
- 患者側では、ガイドラインの文言を示すだけでなく、なぜ当該患者についてその推奨に従うべきだったのかを具体化することが重要です。