医療過誤における因果関係とは

医療機関に過失があっても、その過失がなければ死亡・後遺障害等の結果を回避できたといえなければ、結果全体についての損害賠償責任が認められるとは限りません。ここで問題となるのが因果関係です。

1 過失何をすべきだったか2 因果関係それをしていれば結果は違ったか3 損害どこまで賠償対象か

1 「検査すべきだった」と「検査していれば助かった」は別問題

過失

その時点でCT等の検査を実施する義務があったか。

因果関係

検査を実施していれば疾患を発見し、治療を開始し、結果を回避できたか。

過失と因果関係では、判断の向きが異なります

過失は前方視的、因果関係は後方視的に検討します

過失問題となる時点に時計を戻す

その時点までに医療者が把握していた情報と、当時の医療水準に照らして、どのような診療が求められていたかを判断します。最終的な診断や結果を知っていることを前提に評価してはいけません。

因果関係実際の結果から反実仮想を組み立てる

実際に判明した最終診断やその後の経過も踏まえ、適切な診療が行われていた場合に診断・治療がいつ可能となり、死亡や後遺障害を回避できたかを後方視的に検討します。

ただし、単なる「後知恵」とは異なります。 因果関係も、医学的知見、診療経過、画像・検査結果、治療成績などの証拠に基づいて、適切な診療が行われていた場合の経過を具体的に再構成して判断します。

2 反実仮想で考える

因果関係では、現実の経過と、「適切な診療が行われた」という仮定の経過を比較します。診断遅延であれば、適切な検査時刻、診断時刻、専門病院への到着時刻、治療開始時刻まで具体化し、その時点で治療が奏功した可能性を医学的に検討します。

適切な検査疾患の発見治療開始その時点で治療が有効だったか死亡・後遺障害を回避できたか

3 診断が早まっただけでは足りない

「2時間早く診断できた」という事実だけでは、因果関係の判断は終わりません。その2時間で、実際にどの治療が可能になり、その治療によって予後がどの程度変わったかを検討する必要があります。

4 高度の蓋然性と相当程度の可能性

医療過誤訴訟では、死亡等の結果との因果関係が認められるかに加え、最高裁判例上、適切な医療行為が行われていれば患者がその死亡時点でなお生存していた「相当程度の可能性」があった場合の保護も問題となります。個別事案では、どの法的構成が適切かを判例に照らして慎重に検討する必要があります。

5 基礎疾患がある場合

患者がもともと重い病気を有していたとしても、それだけで因果関係が否定されるわけではありません。一方、適切な診療を行っても同じ時期に同じ結果が生じた可能性が高いのであれば、因果関係の立証は難しくなります。そこで「医療過誤がなかった場合の経過」を医学的に具体化する必要があります。

6 因果関係を立証する資料

  • 診療記録・看護記録・救急記録
  • CT、MRI、レントゲン等の画像
  • 検査値とその推移
  • 診療ガイドライン・医学論文
  • 治療成績・時間依存性に関する医学資料
  • 専門医の意見

主な参考資料

公開前・更新時には、判例・法令・診療ガイドライン等の一次資料を再確認します。