医療過誤における過失(注意義務違反)とは

治療の結果が悪かったことや、後から見れば別の診療方法が望ましかったことだけで、医療機関の法的責任が認められるわけではありません。問題になるのは、診療当時、その医療機関・医療従事者にどのような対応が求められていたかです。

1 悪い結果と過失は同じではありません

医療には不確実性があり、適切な診療を行っても死亡や後遺障害などの結果が生じることがあります。法的な過失の有無は、結果の重大さではなく、問題となる時点で求められていた診療が行われたかという観点から検討します。

2 結果を知った後から評価しない

医療事故を調査するとき、患者側は最終診断や結果を知っています。しかし診療当時の医療者はそれを知りません。そこで、問題となる時点まで時計を戻し、その時点までに判明していた症状、バイタルサイン、既往歴、検査結果、画像所見等から、どの疾患を鑑別し、どの検査・治療・経過観察を行うべきだったかを考えます。

POINT

「実際には大動脈解離だった」ことと、「その受診時点で大動脈解離を疑うべきだった」ことは別の問題です。

3 医療水準

医療上の注意義務を考える際には、診療当時のいわゆる臨床医学の実践における医療水準が問題になります。最新の研究成果が存在するだけで直ちにすべての医療機関に同じ対応が要求されるわけではなく、医療機関の性格、所在地域、専門性、設備など具体的事情も検討対象になります。

4 診療ガイドラインとの関係

診療ガイドラインは、当時の標準的な診療を検討するうえで重要な資料です。ただし、ガイドラインから外れたことだけで法的過失が自動的に成立するわけではありません。推奨の強さ、対象患者、例外、当時の普及状況、患者固有の事情などを確認する必要があります。

5 典型的に問題となる義務

  • 重大な疾患を鑑別する義務
  • 必要な検査を行い、その結果を評価する義務
  • 患者の状態を適切に経過観察する義務
  • 必要な治療を適切な時期に開始する義務
  • 自院で対応困難な場合に専門医へ紹介・転送する義務
  • 手術・処置を適切に行う義務
  • 術後の異常を把握し対応する義務
  • 治療について必要な説明を行う義務

6 過失をどう調べるか

診療記録を時系列化したうえで、問題となる各時点で医療者が把握していた情報を特定し、診療ガイドライン、医学論文、医学書、画像・検査データ等と照合します。必要に応じて専門医から医学的意見を求めます。

7 過失があっても、それだけでは足りません

例えば「午前10時にCTを撮影すべきだった」という注意義務違反が認められても、「午前10時にCTを撮っていれば疾患を発見でき、治療によって死亡を回避できたか」は別の問題です。後者が因果関係です。

主な参考資料

公開前・更新時には、判例・法令・診療ガイドライン等の一次資料を再確認します。