医療事故の調査
患者側医療事件では、相談を受けて直ちに訴訟を起こすのではなく、まず診療記録と医学的資料を集め、何が起きたのかを検証する「調査」が重要です。
1 診療記録を集める
カルテだけでなく、看護記録、検査結果、手術記録、麻酔記録、救急記録、ICU記録、紹介状、退院時サマリーなど、争点に応じた記録を確認します。画像が重要な事件ではCT・MRI・レントゲン等のデータも取得します。
2 診療経過を時系列にする
医療事故では「いつ何が分かったか」が重要です。症状、バイタルサイン、医師の診察、看護師の観察、検査の指示・実施・結果、治療、家族への説明等を時系列化し、問題となる時点を特定します。
3 過失は前方視的、因果関係は後方視的に検討する
医療事故の調査では、過失と因果関係とで、判断の時間軸を分けて考える必要があります。過失は、問題となる時点に時計を戻し、その時点までに医療者が把握し、又は把握し得た情報と当時の医療水準に照らして、どのような診療が求められていたかを前方視的に判断します。これに対し因果関係は、実際に判明した最終診断やその後の経過も踏まえ、適切な診療が行われていたという反実仮想のもとで、診断・治療がいつ可能となり、死亡や後遺障害などの結果を回避できたかを後方視的に検討します。
過失と因果関係では、見る方向が異なります
症状、バイタルサイン、診察所見、その時点までに判明していた検査結果などを基礎に、当時の医療水準から、医療者にどのような対応が求められていたかを判断します。最終診断や後日の情報を、当時すでに分かっていたこととして扱うことはできません。
最終診断、後日の画像評価、病理・剖検結果、その後の臨床経過なども踏まえ、適切な診療が行われていた場合に、いつ診断・治療が可能となり、結果を回避できたかを医学的に検討します。
「後方視的」と「後知恵」は同じではありません。 因果関係も、結果を知っているから当然に認められるわけではなく、画像・検査値、治療可能時期、治療成績などの証拠を用いて、反実仮想の経過を具体的に立証する必要があります。
4 医学文献・診療ガイドラインを調べる
争点となる疾患・検査・治療について、診療当時の診療ガイドライン、医学論文、医学書等を確認します。現在の基準ではなく、原則として事故当時の医療水準を検討します。
5 画像・検査データを検討する
CTやMRI等の画像が争点となる場合、報告書だけでなく原画像そのものが重要になることがあります。必要に応じて専門医による読影・評価を検討します。
6 専門医の意見を求める
弁護士は医学的専門家ではありません。法的争点を整理したうえで、必要な医学的事項について当該分野の医師から意見を得ることがあります。医師の意見をそのまま法的結論とするのではなく、医学的評価を踏まえて弁護士が法的評価を行います。
7 過失・因果関係・損害を分けて評価する
8 調査結果によっては責任追及を勧めない場合があります
調査は「医療機関の過失を見つけるため」だけに行うものではありません。医学的・法的に検討した結果、注意義務違反を認めることが難しい場合や、因果関係の立証が困難な場合もあります。その場合には、調査結果と理由をご説明します。